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「不倫」はやっぱり文化だ! 〈林真理子×柴門ふみ〉

時まさに不倫元年。年始からの報道ラッシュもさることながら、当事者に対する世間のバッシングはまた前代未聞の厳しさだ。しかし『源氏物語』を繙くまでもなく、“禁断の愛”は日本文化の原点ではなかったか? 世の風潮に違和感を覚える二人の作家がついに立ちあがった!

 今年に入ってから、ベッキー、宮崎謙介元議員、桂文枝さん、乙武洋匡君……と不倫がバレて、ものすごく批判されていますね。センテンススプリングが火をつけてしまった「不倫は許すまじ」という世の中の空気は何とかしてほしい。
柴門 私もいまの不倫叩きは、ちょっと違うと思っています。よくよく考えてみると、不倫で怒る権利があるのは、浮気された奥さんだけですよね。
 そうですよ。不倫がバレて、記者会見で「世間をお騒がせして、すみません」ってよく言うけど、謝る必要なんて全然ない。みんな、スキャンダルを楽しんでいるだけだもん。
柴門 世間は害を被ったわけじゃないし、むしろ話題を提供してくれてありがとうという感じでしょう。ベッキーちゃんは、元気で天真爛漫なところが売りのタレントだったから、かわいそうだなと思って。
 かわいそうですよ。いまベッキーみたいな若い女の子たちは、普通の恋愛ってそんなに楽しくないんじゃないかな。だけど、妻のある男の人とこっそりつき合うのはドラマチックでスリリング。ベッキーは、まだ彼と結ばれる日を夢見ているかもしれないよ。
柴門 ベッキーちゃんは「ゲスの極み乙女。」のファンだったんでしょ。
 ファンでライブの打ち上げに行って口説かれたら好きになっちゃうよね。
柴門 しょうがないよ。打ち上げの夜ってアドレナリンが出て高揚してるし、最初は奥さんがいるって知らなかったみたいだし……。
 乙武君もすごく糾弾されましたが、あれは男性の嫉妬も大きい。モテない男のひがみ。
 本当だよね。私のまわりでも女の人はみんな「いいじゃん」って言ってる。
柴門 桂文枝さんの場合は、七十過ぎてもまだ愛人を持てることが、世の男性はうらやましいんですよ。
 まあ、文枝さんには、もう少し相手を選んでほしいと言いたいですけど。
柴門 これまで芸人さんって、自分の浮気でもネタにして笑いをとるのが当たり前だったと思うんだけど、ここ数年で潮目が変わってきたような気がしてて。
 私もそう思う。
柴門 とにかく明るい安村さんだって結構うろたえていたし、文枝さんほどの大御所でも、笑い飛ばすことができなかった。芸人さんでさえ笑いにできない風潮になってきてるのは、ちょっとどうなんでしょう。
 ビートたけしさんはどうなの? 愛人と暮らしていると週刊誌でも書かれているけど、もう老人枠だからいいのかしら。
柴門 老人枠(笑)。いま何をやっても許されるのは、たけしさんぐらいじゃない? ダウンタウンの浜ちゃん(浜田雅功)だって、奥さん(小川菜摘)が怖いみたいで低姿勢だし。
 私、お笑い芸人の不倫記者会見でものすごく印象に残っているのが、宮川大助・花子の花子さんが若手芸人と不倫したとき。
 それ、私も覚えてる。
柴門 夫婦で記者会見して、大助が「おまえほんまにやったんか」って言って、「やったやった、アッハッハッ」って。見ていて、すごいなあと思ったんですよ。
 そうだね。最近はなんでこんなに不倫に対して厳しくなってきたんだろう。
柴門 ネットだと思います。いまは何かあると、ネットであっという間に炎上しちゃう。ネットに叩かれて謝らなきゃいけない状況に追い込まれたり、過敏に反応するとまた叩かれたり。
 ネットなんか無視すればいいのに。
柴門 林さんのように強い人ばかりではないですよ。
 そうか、芸能人は人気商売だし、大変だよね。
柴門 あと、政治家も不倫はまずいわけでしょう。
 政治家だって昔はすごかったよ。いまブームになっている田中角栄さんなんか、複数の愛人がいて、それぞれに子どもを産ませていたんですから。
柴門 公然と愛人を秘書にしていましたものね。
 ハラケンの愛称で知られる原健三郎という政治家は、選挙のときに奥さんもお妾さんも土下座させて、「偉い!」と評判になって票が入ったって。
柴門 時代や生まれ育った環境もありますよ。私は生まれが徳島で、昔はまだ近所にお妾さんと呼ばれる人がいました。昭和の時代はまだお妾さんというものは、そんな悪いことじゃないみたいという下地がありましたね。

「道ならぬ恋」に惹かれる心

 そうそう。日本はもともと浮気についておおらかだったでしょう。『源氏物語』が書かれた平安時代の頃は、正妻以外にも女性は何人も持てましたよね。
柴門 でも、一夫多妻が認められていても、六条御息所は嫉妬のあまり生霊になってしまいましたよね。そういう意味では現在の一夫一妻制は、とりあえず正妻が一番偉くて、残りは全部ルール違反という決まりで、すごくわかりやすい。
 そうね。フェミニストの中には、明治に入ってから出来た戸籍制度が女性を縛っているんだって言う人もいるけど、婚姻制度がなかったら、男女はグチャグチャになっちゃう。
柴門 うん。そのひとつの典型が『美は乱調にあり』(瀬戸内寂聴原作)で描いた、大杉栄と三人の女だと思う。アナーキスト大杉栄は、男も女も経済的に自立して自由にセックスする「フリーラブ」という男女のありかたを提唱して、大杉栄伊藤野枝、神近市子、妻の保子という一対三のフリーラブを始めるわけですよ。ところがうまくいくはずはなくて、大杉は経済的には神近に頼りきりになり、女性としては最初から伊藤野枝が大好きで、妻とはやむなく離婚できずにいただけ。四人の関係はあっという間に破たんして、大杉栄は神近市子に刺されちゃうわけです。平塚らいてうが「誰かを傷つけるようなこの恋愛がこの先うまくいくとはとても思いませんでした」と書いてますけどね。

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フリーラブを描いた『美は乱調にあり』

 そうだよね。大正の頃までは、軽井沢の別荘で首を吊った有島武郎と波多野秋子みたいに、不倫がもつれて心中に発展することもよくあったみたい。
柴門 いま不倫して死ぬ人はまずいませんよね。そうすると、やっぱり昔のほうが厳しかったのかな。
 それは姦通罪があったから。北原白秋は不倫相手の夫から告訴されて投獄されたからね。人妻と不倫して相手の夫にバレたら、男は牢屋に入るか死ぬかの二つしか選択肢がなかった。
柴門 そうよね。戦前は命がけだったんですね。
 でも、道ならぬ恋とわかっていながらどうしようもなく惹かれてしまう心や、そこに生まれる美学とか甘美な喜びというのは間違いなくある。そうしたものを書くのが小説であり、作家なんだと思うし、だからこそ『源氏物語』以降、多くの名作が生まれているわけでしょう。不倫がなければ、小説は書けません。柴門さんには不倫をテーマにした作品はありますか。
柴門 『Age,35』や『同窓生』ですね。『あすなろ白書』は、ヒロインが上司と不倫します。
 私たちはそういう人の気持ちの理解者だよね。
柴門 もちろん。作家ですから、気持ちはわかります。遊びたい男の気持ちも、怒る妻の気持ちも。そこに寄り添って人間を描くのが商売みたいなものだから。
 昔、渡辺淳一先生が「人はもっと不倫すべきだ」っておっしゃっていました。不倫すれば男も女も活力が出てくるし、経済効果もすごい。食事したり、プレゼントしたりで何十億円にもなるはずだ、と。半分冗談でお書きになったと思うんですけど、柳美里さんが「不倫で苦しむ人もいるんだ」って反論していた。
柴門 たしかにこれまで、傷ついた奥さんの側の気持ちにあまりスポットライトが当たってこなかったかもしれない。一昨年、七十代の妻が、介護をしている夫から「若いころの不倫は楽しかった」と言われて、夫を殴り殺した事件がありましたよ。
 ダンナの浮気を笑って許してる奥さんは偉いという風潮があるけれど……。

女の不倫は欲、男の不倫は見栄

柴門 でも、本心から笑って許している妻なんて、実はひとりもいないですよ。オモテでは物わかりのいいことを言っている奥さんでも、よく話を聞いてみたら、夫には怒っているし、愛人と対決した過去を明かしてくれた人がいました。男はよく「なんでそんな古いことを持ち出すんだ」と言うけど、女は自分が痛い目に遭った経験を瞬間冷凍できちゃうんです。ある時ふとした瞬間に電子レンジで解凍して、まるでこの間のことのようにリアルに鮮明に思い出すことができる。
 私もそうだよ。夫にされた嫌なことなんて、つい昨日のことのように(笑)。
柴門 なぜ奥さんが不倫に対して怒るかというと、夫は百パーセントの愛情と金と時間を私に分け与えるべきなのに、よその女にそれを使ったからなんだって。『大人恋愛塾』に書いた話なんですけど、ある出版社の男性は浮気がバレて、妻に半年のあいだ毎晩「あの女と何回、どんな体位でやったの?」と責められ続けたんですって。妻からすれば、それは自分がもらって当然の権利だったから。
 奥さんってさ、自分がなにか後ろめたいことをしていても、絶対にダンナのことを許さないよね。
柴門 やっぱり女は欲張りなんです(笑)。女の不倫は欲、男の不倫は見栄のためですよね。男は自分がまだモテることを確認したくて浮気する。
 なるほど。柴門さんに聞きたいんですけど、上戸彩ちゃんが出ていたドラマ『昼顔』がすごく流行ったでしょう。奥さんたちは不倫のドラマに胸をときめかせてるのに、他人がすると怒るわけ。世間の奥さんたちは本当に不倫している人に怒っているのかな?
柴門 不倫をしてない奥さんは怒るんじゃない?
 『昼顔』をうっとり眺めたり、疑似恋愛している自分はいいけれど、実際にやってる他人には腹が立つということですか。
柴門 週刊誌の不倫報道を見ると、奥さんはまず妻に感情移入しちゃって、いつの間にか不倫してる男が自分のダンナとかぶってきちゃうんだと思いますよ。
 なるほど。
柴門 でも、そういう奥さんたちに限って、林さんの『不機嫌な果実』を読むとヒロインになりきって、「不倫の何が悪いの?」と思うような気もしますよね。

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不倫を描いた『不機嫌な果実』は発表時、社会現象に。
栗山千明市原隼人主演で連ドラに テレ朝系「金曜ナ
イトドラマ」4月29日スタート

 そうだといいけど。私もそう思いながら書いてますから。「不倫の何が悪いの?」って。
 これは設定変えて短編小説にしたことがあるんですけど、昔、女性の読者からお手紙が来たんです。「林さんの本を読んでいますが、実際にはこの世に不倫なんかないと思っていた。だけど、本当にあるんですね」って。彼女が同窓会へ行ったら、チビで勉強もそこそこだった男子がお医者さんになっていてビックリしたそうです。「彼に私のことをずっと好きだったと言われて、会うようになりました。彼が医者になるなら中学の頃にフラなければよかった。うちの夫はサラリーマンで、彼は医者でいい給料をもらっているから悔しい。だから、いま不倫して憂さを晴らしています」って。
柴門 それ、本当の話?
 うん。それから半年ぐらい経って来た手紙によれば、彼は難病にかかってしまったらしい。「ああ、不倫でよかった。看病なんかしなくて知らん顔していればいいから、結婚しないでよかったと思いました」。それで手紙が終わっていた。
柴門 すごい話だね。でも、女ってそうだと思う。週刊誌を見て「不倫、許せん」と怒っている主婦でも、いざ自分がそういう関係になったら、不倫をすごく楽しむ気がします。
 楽しいと思うよ。やっぱりおしゃれもするし、表情も生き生きしてくるし。
柴門 人妻でも、五十過ぎるとハードルがすごい低くなります。
 おおっ!
柴門 残された人生を思えば、不倫を一回や二回したって罰は当たらないだろう。夫とはもう十年セックスレスだし、死ぬ前にしてもいいんじゃないか、って。
 そういう時に限って男が来なかったりして(笑)。このお腹は見せられないっていう美意識もあるはず。
柴門 同じくらいお腹が出ているおじさんならいいかも(笑)。でも、妄想してるぶんには楽しいけど、不倫は結局、傷つくんですよ。私は『イングリッシュ・ペイシェント』という映画が大好きなんです。壮大な不倫劇なんですけど、中でも好きなシーンがあって、人妻が夫の元に戻ろうとして、恋人の男は彼女をみんなの前で侮辱する。その男が去っていこうとしているところに彼女は追いかけていって、「傷ついたのは自分だけと思わないで」と言う。泣けるシーンなんですよ。不倫はみんな傷つく。林さんのお友達でも、うまく不倫できてる人ってみんなタフな人たちでしょう。
 タフでお金のある人。
柴門 だから、不倫は小説や漫画や映画で楽しむほうがいい。これが結論(笑)。
 そうね。お互い物書きとして読者を感動させる作品を書き続けていこうね。
柴門 はい、頑張ります。

さいもんふみ/1957(昭和32)年徳島県生れ。79年漫画家デビュー。『東京ラブストーリー』『あすなろ白書』『同窓生――人は、三度、恋をする――』『美は乱調にあり』、エッセイ集『大人恋愛塾』『大人のための恋愛ドリル』など。


週刊文春」2016年5月5日/12日 ゴールデンウィーク特大号