参院選「全選挙区」完全予測〈2016〉 衆参ダブルでも「与党3分の2」届かず (政治広報システム研究所代表・久保田正志+本誌取材班)

北海道補選における野党候補の猛追に、官邸は一時、色を失った。そんな矢先に熊本地震が発生。政権与党には追い風となった一方で、相次ぐ失言は、有権者の目には自民党の“驕り”と映る。衆参ダブルはあるのか。最新の選挙予測は、衝撃的な結末を示している。

 七月十日投開票が確実視される第二十四回参院選の“試金石”と目された北海道五区補選。故・町村信孝外相の娘婿、和田義明氏と野党統一候補の池田真紀氏との熾烈な戦いは、和田氏に軍配が上がった。
「四月上旬の世論調査で池田氏にリードされた時、和田氏は『俺は三菱商事を辞めてきたんだぞ』と怒っていました。町村時代からのベテラン秘書が事務所を去り、選対本部もあまり機能していなかった。官邸も強い危機感を抱き、小泉進次郎氏を二度も現地入りさせ、さらに公明党の支持母体、創価学会もフル活動させました」(道政担当記者)
 この時点では、まだ情勢は不透明だったが、風向きが変わったのは「熊本地震」の発生によってだった。
「一般的に危機的な事態が起きると政権与党の支持率は上がります。災害対策本部の会議は、毎回頭撮りがあり、首相自ら成果をアピールしていた。北海道でも政府の震災対応ばかりが報じられていました」(官邸関係者)
 投開票の約一週間前には自民党幹部は勝利を確信していた。
自衛隊員や学会員の期日前投票で、和田氏が大きくリードしていた。二階俊博総務会長も『勝てそうだろ』と余裕を見せていました」(自民党担当記者)
 それで気が緩んだのだろうか。
 四月二十一日夜、東京・自由が丘にある中華料理店。五区補選の投開票を三日後に控え、熊本では行方不明者の捜索が続くなか、自民党の熊本地震対策本部長でもある谷垣禎一幹事長と十人以上の番記者が集まり、谷垣氏の七十一歳の“誕生日会”が開かれていた。
「谷垣氏は三月七日生まれですが、都合がつかず、開催が延び延びになっていました」(政治部デスク)
 一行が陣取った個室には、紹興酒やビール瓶が次々と運ばれていく。真っ赤な顔になった谷垣氏は、番記者を前にこうまくし立てていた。
「補選は横一線。自民党の議員の軽率な言動が影響している。もし負けたら、(「巫女のくせに」発言の)大西英男A級戦犯だ」
 あるいはこんなことも。
「選挙制度改革で東京一極集中になったら、宮崎謙介みたいな、どうしようもないヤツばかりになる」
 批判の矛先は、暴露本を出そうとしたこの人にも向けられた。
「TPPの西川(公也)委員長は強面に見えるが、軽率だ。強面には軽率な人が多いんだ」
 宴会は三時間弱続き、お開きとなった。民放の若い記者から「外には誰もいません」と報告を受けた谷垣氏が悠然と店外に出たところを、小誌は直撃した。
――捜索も続いていますが、なぜこういう会を?
「捜索は続いてます。ただ、キャンセルを続けているのは、大きな店ならともかくこのくらいの店だと気の毒です。経済が自粛して、風評被害だとか、そういうことがあると思います」
 ところが谷垣氏は、再び小誌の名を確認すると「ブンッ、文春とはケンカしたことがある。文春なら(発言を)撤回します」と激高したのだった――。
 弁護士資格を持つ谷垣氏が過去の小誌との裁判を“ケンカ”とは恐れ入るが、「安倍一強」と言われながらも、一方でスキャンダルや失言が相次ぐ「驕る自民党」への批判の声は高まっている。
 北海道五区補選は自民党の勝利に終わったが、果たして、来る参院選はどのような結末を迎えるのか。

野党に“チャンスの順番”到来

 小誌は前回(一月十四日号)に引き続き、政治広報システム研究所の久保田正志代表とともに徹底した情勢分析を行なった。
 まずは参院選の党派別予測(表1)から見ていこう。

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 自民の予測値は現有(改選)から三議席増の五十四議席。非改選と合わせた選挙後の自公の議席数は、百四十三議席にとどまった。ここに改憲勢力の「おおさか維新の会」や「日本のこころを大切にする党」、与党系無所属議員まで加えると百六十二議席となり、安倍首相の悲願である「憲法改正の発議」に必要な三分の二にギリギリ届く。
 だが、自民党が安泰というわけではない。
 久保田氏が解説する。
「五区補選の勝敗をそのまま鵜呑みにすれば、全体のトレンドを見誤ります。池田氏はそもそも、一四年末の衆院選では泡沫候補でした。その彼女が町村氏の地盤でここまで迫ったこと自体、野党共闘が着実に進捗していると見たほうがいい。特に大きいのは、共産党の存在でしょう。彼らはいわばプロの政治集団。五区補選でも陰で党員の動員をかけ、票を上積みしました。民進も改めて共産のパワーを思い知ったはずです」
 野党共闘について、民進党枝野幸男幹事長はこう語る。
安倍政権と戦う勢力が特に一人区で一本化されるのは望ましい。それは期待以上に進んでいます。多くの地域で市民や政党以外が主体となっており、それぞれの政党に対する先入観も克服しやすい状況です」
 民進と共産の幹部同士が結束を深めた夜がある。
 時計の針は、四月七日夜に遡る。永田町の日本料理屋で野党四党の幹事長・書記局長会談が行なわれ、その後、枝野氏の音頭で二次会のカラオケに向かったのだ。「他党との宴席に共産党がいるのは異例だ」(閣僚経験者)という。
 枝野氏が振り返る。
共産党さんには内々に打診しておかないと来にくいですから。(共産党は)『ウチは、世間の皆さんのイメージとは違うんです』ということを仰っているので、それならぜひ、と。山下芳生書記局長(当時)も歌っていましたよ。私は大ファンのAKB48の『チャンスの順番』や、サザンオールスターズの『ピースとハイライト』などを歌いました。カラオケをやると、急速に話がしやすくなりますからね」
 各選挙区の予測一覧(表2)を見ていくと、長らく期待感の乏しかった野党にも“チャンスの順番”が回ってきたことが分かる。

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参院選の帰趨を決めるのは、全国三十二の一人区での勝敗。自民は前回予測より三議席減でしたが、その要因は、山形、福島、長野、岡山の四つの一人区で野党統一候補に逆転を許したことです」(久保田氏)
 福島選挙区では、岩城光英法相が落選の危機に立たされている。国会でTPPの紛争解決(ISDS)条項を問われ、答弁中に右往左往した姿には、安倍首相も頭を抱えていたという。
「二人区時代は毎回野党候補より得票数が少なく、選挙は決して強くない。大臣室で会った時も、『今年の選挙は厳しいね』と漏らしていました。県連主催のパーティーに小泉進次郎氏を呼ぶなど必死の選挙戦が続いています」(福島県議)
 長野選挙区では北澤俊美元防衛相の後継として、民進がTBSの“ニュースの顔”だったキャスターの杉尾秀哉氏を擁立。高い知名度で自民候補を逆転した。
 その杉尾氏が語る。
蓮舫さんから『私、東京から比例に移ってもいいわよ』という話もあった。ただ、東京は決まるのに時間がかかりそうで。長野でも北澤さんが後継を探しているという話もあって、それなら長野で出ます、と。共産党候補が(選挙区から)全国比例に回ってもらうのは有難いこと。“民主党”、連合の一部に共産党アレルギーはありますが、勝つという目的のためには手段は選びません」
 四月二十四日現在、野党候補の一本化は二十六選挙区で実現している。
 だが、全国的に野党共闘の成果が出ているわけではない。枝野氏も「東日本はいい勝負をしているが、西日本は足腰が弱い。正直なかなか伸びてこない」と吐露する。
 そんななか、久保田氏が参院選を占うメルクマールと見るのが、被災地の熊本選挙区だ。
「実は最初に野党統一候補が決まったのが熊本です。政府が震災対応を誤れば、保守地盤の熊本で、野党の逆転もあり得るでしょう。候補の阿部広美氏はシングルマザーから弁護士になった経歴の持ち主。DVや貧困問題を訴えている点は、五区補選の池田氏にも重なります」(久保田氏)
 ある民進党幹部は「野党勢力で一人区の半分(十六議席)」を、参院選の勝敗ラインに掲げている。
「現時点では野党勢力で十二議席の予測ですが、最大で十七議席と勝ち越すことも可能です」(久保田氏)
 一方、最近イライラが止まらないのが、自民党茂木敏充選対委員長だ。圧勝だったはずの北海道五区補選は池田氏に猛追され、東京選挙区の二人目として擁立を決めていた乙武洋匡氏は“五人不倫満足”で出馬断念に追い込まれた。

東京選挙区の二人目は誰か

乙武氏の出馬断念をいち早く報じたフジテレビを『誤報だ』と出禁にしたかと思えば、『党三役が北海道入り』と報じた時事通信を『自分も入れて党四役だ』と出禁に。四月七日号の文春に自身のオフレコ発言(『乙武君も元気だな』など)が報じられたことにも怒っていて、毎週金曜の記者懇も中止になりました」(前出・自民党担当記者)
 安倍首相も「茂木さんにはしっかりやって欲しい」とため息を漏らしているというが、東京選挙区の二人目となる“ポスト乙武”は一体誰なのか。
「組織票を持つ団体はほとんど一人目の中川雅治氏につけているため、二人目に著名人候補を出すという戦略は変わりません。東京五輪に向けて元銀メダリストの有森裕子氏や、保守メディアでの発言も目立つ舞の海秀平氏、さらに、安倍首相と関係が良い渡辺喜美氏らの名前が取り沙汰されています」(自民党関係者)
 有森氏も舞の海氏も事務所担当者を通じて「打診もないし、出馬の意欲もありません」と回答した。
 かたや「八億円献金問題」で前回衆院選で落選した渡辺氏は「八億円はすべて返しました」と国政復帰への意欲を隠さないが、自民との関係は複雑だ。
「比例や東京選挙区とかいろいろオファーは来ています。ただ、(自民栃木県連の会長、茂木氏と)関係が改善したという話は全くない。民進とは考え方が基本的に違うし、民共路線には疑問があります。
(離婚と報じた)文春には(妻を)有名にしていただきましたが、かみさんの手料理を食べて、体重も八十キロから六十八キロまで落としました。センテンススプリング様様ですよ」
 著名人擁立にこだわる茂木氏の戦略には、身内からも批判が飛んでいた。
「SPEEDの今井絵理子氏を比例代表で擁立することを決めた時は、溝手顕正参院議員会長が党の役員会で茂木氏に対し、『参院は芸能プロダクションじゃないぞ』とヤジを飛ばしていました。今井氏と同じ参院比例の片山さつき氏も、ろくに政策を語れない今井氏を『三原じゅん子以下よ』と吐き捨てています」(前出・自民党担当記者)
 沖縄出身の今井氏を擁立した背景には、沖縄選挙区の島尻安伊子沖縄北方担当相を後方支援する意味合いもあった。ところが、茂木氏の目算は外れている。
「選挙区は島尻氏、比例は公明というバーターだったのに、今井氏が公明への比例票を食う可能性が出てきました。公明を刺激したくない自民県連は、今井氏に沖縄入りの自粛を求めています」(地元紙記者)
 今井氏の“後見人”である山東昭子元参院副議長に彼女の近況を尋ねると。
「(沖縄は出禁か?)はい、はい。日本全国広いですから。公明党は島尻さんを支援していただければいい。(今井氏には)私の関係の美容団体や環境団体もあります」
 高い知名度を活かし、今井氏は当選確実と見られるが、結局、島尻氏には未だ公明からの推薦は出ないまま。現職大臣ながら落選の憂き目に遭いそうだ。
 実は、沖縄以外にも、自公間の選挙協力に亀裂が走っている選挙区がある。

メールで古巣に指示を出す橋下氏

 公明は四月二十四日現在、三十二の一人区のうち、二十九選挙区の自民候補者に推薦を出している。推薦が出ていないのは、沖縄の島尻氏、福井の山崎正昭参院議長、徳島・高知の中西祐介氏の三人だ。
「徳島・高知に推薦が出ていないのは、麻生太郎副総理と公明との関係が悪化しているから。これには、神奈川選挙区の事情が影響しています」(自民党幹部)
 どういうことか。自民は神奈川で比例から鞍替えした三原じゅん子氏を公認し、党本部主導で旧みんなの党出身の無所属、中西健治氏にも推薦を出した。
「麻生氏は財政金融委員会での質問を通じて中西健治氏を見出し、出馬会見にも同席。麻生氏自ら県内の経営者に電話をしている。しかし公明も新人の三浦信祐氏を公認しており、『定数四の神奈川で与党系三の当選は厳しい』と反発しています。そこで公明は、麻生派の中西祐介氏への推薦を見送っているのです」(同前)
 一方、神奈川二区選出の菅義偉官房長官は自らのパーティーの壇上にわざわざ三浦氏を招き、支援者に紹介。軽減税率導入を巡る議論以来の、麻生氏との対立がここでも表面化した恰好だ。
 野党共闘の行く末がクローズアップされるなか、橋下徹大阪市長の政界引退で、存在感が薄くなっているのが、おおさか維新だ。
「橋下氏は講演が安定収入源で、ギャラは二百万円だそうです。タレント復帰をかけた羽鳥慎一アナとの新番組については『このまま視聴率が上がらない気がする』とボヤいていました。一方で国会議員には今もメールで『待機児童問題はこうやれ』『あの発言は言い過ぎだ』とか指示を出しています。党勢は衰えるばかりで、我々は橋下氏の復帰を望んでいますが……」(おおさか維新関係者)
 存在感が薄いのは、生活の党の小沢一郎共同代表も同じ。参院選で比例の統一名簿に野党が結集する「オリーブの木」構想を訴え、「少なくとも三回は共産党志位和夫委員長とサシで会っている」(野党担当記者)というが、核となるはずの民進はつれない対応だ。
 枝野氏も取材に「民進党結成だけでもエネルギーを使った。もう一つ別のこと(統一名簿)をやるというのは無理です」と答える。
 六年前は旧民主の目玉候補だった生活の谷亮子副代表。今回改選を迎えるが、
「考え方が自民党に近い谷氏は、小沢氏が山本太郎氏と合流したことに怒っていました。小沢氏も『谷はもう柔道界に返す』と漏らしている。代わりに、かつて不倫スキャンダルが報じられた“ぶってぶって姫”こと姫井由美子氏を比例で擁立するようです」(生活の党関係者)
 姫井氏はこう語る。
「小沢さんからは頑張って欲しいと言われている。比例ということだと思います。谷さんは何事もなければ二期目を目指すのかな。(夫とは離婚していない?)はい、全然変わりません」
 民主の新人だった姫井氏が自民の大物、片山虎之助氏を倒した“姫のトラ退治”から早九年が経つ。この〇七年の参院選で惨敗したことで、第一次安倍政権は崩壊に至ったのだった。
「首相には今もあの参院選のトラウマがある。スキャンダルや失言が相次ぐ状況は、当時と近いものがあります。そこで打って出ようと考えていたのが、野党共闘を分断できる衆参ダブル選でした」(首相側近)

「逆にダブルで決まりじゃないの」

 ところが震災後、急速にダブル回避論が色濃くなっている。震災から六日後の二十日、産経新聞が一面トップで「首相、同日選見送りへ」と報じると、他紙も一斉に追随した。
「解散はサプライズでないと効果が薄い。一連の記事は、ダブルが既定路線という震災前の空気を打ち消すために官邸が書かせたのでしょう。実際、首相は今も本音ではダブルをやりたがっているし、麻生氏も『勝てるならやるべきだ』と漏らしている。二階氏も、政府高官が公明党幹部にダブル見送りを伝えたという報道について、『派閥のヤツらには“政府高官というタヌキには騙されるな。ガセネタを信じるな”と言わないといかん』と言っていました」(前出・政治部デスク)
 枝野氏もダブルはあり得るという見解だ。
「産経の番記者にも『産経が先行して打ったのだから、逆にダブルで決まりじゃないの』と言いました。うちはダブル想定で走っているし、準備は十分出来ています」
 安倍首相は、震災被害の大きさや経済状況を見ながら、五月下旬のサミット後に、最終的な判断を下すものと見られる。では、ダブル選を敢行した場合、衆院議席数はどうなるか。下の表3をご覧いただきたい。

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 自民は現有から十五議席減の二百七十六議席、公明は四議席減の三十一議席。自公で三百七議席となり三分の二(三百十七議席)を割り込む結果になった。
 久保田氏が解説する。
「ダブル自体は与党に有利とはいえ、前回の予測より自民は九議席減らす結果となりました。一方、民進は前回の旧民主と旧維新の合計に比べて、十七議席増の九十九議席。民進の支持率は低いままですが、政権批判の受け皿として、新党結成の効果は少しずつ出ていると言えるでしょう」
 今回、自民で厳しい戦いを強いられているのが、スキャンダルを起こした“二〇一二年組”の二回生議員だ。“ゲス不倫”宮崎謙介前衆院議員の妻、金子恵美氏(新潟四区)、二股交際が報じられた石崎徹氏(新潟一区)、中川郁子氏との不倫キス写真を撮られた門博文氏(和歌山一区)らは軒並み劣勢となった。
 震災の現地対策本部長を僅か五日で更迭された、松本文明内閣府副大臣(東京七区)も劣勢。相手は民進の長妻昭代表代行で、比例復活も厳しいと見られる。
 久保田氏が今後のシナリオをこう予測する。
「確かに、衆院での野党共闘はまだ道半ばです。しかし、五区補選の勢いを見る限り、共産が自主的に候補者を取り下げる選挙区は今後増えてくるでしょう。
 前回の衆院選で、野党が八〇%以上の惜敗率を記録した選挙区は四十一ありました。共産も加わる形の野党共闘が進めば、これらの選挙区では野党勢力が自民から議席を奪い返すことも可能です。その場合、自民は二百五十議席前後まで落ち込むことになる。
 有権者の間で“安倍一強政権”への不満が渦巻きつつあるのは事実。ダブルを打ったからといって、首相の狙い通りの結果になるとは限らないのです」
 これまで側近に「支持率は四割が底」と漏らしてきた安倍首相。だが、野党共闘の展開次第では、五割を超える不支持層が政権崩壊の震源地になり得るのだ。

週刊文春」2016年5月5日/12日 ゴールデンウィーク特大号