〈「理事6人斬り」で官邸激震〉籾井会長大暴走を支える「NHK美人記者」

NHKが大混乱に陥っている。四月十二日の経営委員会で、反籾井派への“粛清人事”が断行されたのだ。度重なる不祥事の最終責任者であるはずの籾井会長は、なぜ生き残ったのか。その陰には「安倍首相に最も近い」と噂されるNHKの美人記者の存在があった。

「クレイジーだ……」
 ある政府高官は、こう呻(うめ)いた。NHKの次期理事の人事を決める経営委員会を翌日に控えた四月十一日のことだ。高官が“クレイジー”と評した相手は、六人もの理事を立て続けに交替させた籾井勝人会長(73)その人である。
 今回の人事案とは、現職の八人の理事のうち、板野裕爾専務理事、福井敬専務理事、井上樹彦理事、浜田泰人理事の四人を一気に退任させるというもの。実際、十二日の経営委員会でこの人事は了承された。
「一言でいえば、理事の人事権を握っている籾井会長による、反籾井派の理事の“粛清”です。理事の任期は一般的に二期四年なので板野、福井の両氏については、一応任期という理屈はたちます。ただ井上、浜田両氏は一昨年四月に理事になったばかりです」(NHK幹部)
 籾井会長と理事たちとのの間で何があったのか。因縁の物語は、二〇一四年の籾井会長誕生にまで遡る。
 会長就任当日の記者会見で、いきなり「政府が右と言っているものを我々が左と言うわけにはいかない」と言い放った籾井会長。その後も問題発言を連発、さらに休日に都内にある自宅と小平市のゴルフ場を往復するのにかかった五万円近いハイヤー代を一度はNHKに支払わせていたことも発覚するなど、その資質を疑問視する声は多かった。にもかかわらず、ここまで会長を務めてこられたのは、他ならぬ首相官邸の後ろ盾があったからだ。

籾井氏の「側近中の側近」だった

三井物産の鉄鋼部門担当の副社長から日本ユニシス社長に転じた籾井さんを引っ張ってきたのは、安倍官邸です。必ずしも官邸の意に沿わなかった松本正之前会長をすげ替えるためでした。籾井氏を推薦したのは、今井敬(たかし)新日鉄住金名誉会長。今井氏は安倍首相の秘書官である今井尚哉(たかや)氏の叔父です」(同前)
 実は今回、退任となった板野氏と井上氏も、もともとは官邸の意を受けて籾井氏を支えてきたという。
菅義偉官房長官杉田和博官房副長官に近い板野氏や井上氏らが籾井氏をサポートする体制をつくらせたのです。そのためNHK内部では板野・井上の両理事は籾井氏の側近中の側近として、『会長の側用人』とも『官邸のお目付役』とも称されて、敬遠されていました」(同前)
 いわば官邸の“子飼い会長”だった籾井氏だが、徐々にその本性を現し始める。それが決定的となったのは、昨年発覚したNHKの関連子会社による土地取引の問題だった。NHK関係者が説明する。
「この取引は放送センターからすぐそばの渋谷区宇田川町にある約三千四百平米の駐車場をNHKビジネスクリエイト(NBC)など関連会社九社が三百五十億円で購入する計画を進め、優先交渉権を得たものです。計画は、関連会社が抱える九百億円もの剰余金の一部を購入代金にあてるとして、籾井会長らが主導して進められていました」
 本来、放送法ではNHKによる「重要な不動産の取得及び処分に関する基本事項」は経営委員会に諮らなくてはならない。だが、籾井氏がこの手続きを省いて取引を進めようとしていたことを、昨年十二月八日に毎日新聞が報じ、問題が発覚したのである。
 報道のあった当日、東京・渋谷の放送センター本館二十一階にある役員会議室で行なわれた理事会は紛糾した。まず口火を切ったのは、井上氏だった。
「(この取引は)コンプライアンス上の疑義があるので、見直したいと思います」

「反籾井派と思われたらかなわない」

 以下、小誌が独自に入手した当日の議事録より、やりとりを再現する。井上氏はこう続けた。
「優先交渉権の文書には会長の了解をもらってサインしましたが、この話は関連会社の資金計画と事業計画が決まらないうちに進んでいて、手続きが整っていません」
 井上氏は関連事業担当の理事として、籾井氏とともにこの取引を推進してきた立場でもある。これまで自分を支えてきた井上氏の発言は寝耳に水だったのだろう。籾井氏は激高してこうまくしたてた。
「井上さんだって自分で判断して印鑑を押したんでしょう? コンプラ違反だというのなら、天に唾するようなもの。職務怠慢だろう!」
 そこに冷ややかに口をはさんだのが、やはり籾井派だったはずの板野氏だ。
「そもそも三百五十億円だという話は今朝の報道で初めて知りました。一度も説明がありませんでしたね」
 会長、副会長に次ぐ立場にある板野氏が本当に知らなかったのかどうかは定かでないが、この発言に籾井氏はブチ切れる。
「板野さんね、今朝初めて知ったというなら、それはそれでいい。けれど、何がコンプライアンス違反なのか。(中略)だいたい反対するような案件じゃないでしょう。NHKは病んでいる!」
 籾井氏の「側近中の側近」だった二人の理事が叛旗を翻したのはなぜか。
「この取引を知った官邸が激怒したからです。とりわけ以前から籾井氏の言動に神経を尖らせていた杉田副長官に、『また国会案件になりかねない』と忠告を受けた二人はこの取引を止める方向に動きました」(前出・NHK幹部)
 結局、この土地取引は白紙撤回され、一時は籾井氏の立場も危うくなる。
「官邸が後任のリストアップを始めているという話が広まりました。一方で、今井秘書官は、籾井氏を呼び出して、『しっかりやって欲しい』と注文をつけています」(前出・NHK関係者)
 だが年が明けると、土地問題を逆恨みした籾井氏の逆襲が始まる。二月、まず手始めとばかり、専務理事の塚田祐之、吉国浩二の両氏を退任させたのだ。
NHK改革を掲げた松本前会長の時代に理事に就任した二人を籾井氏は煙たがっていた。それまでにも二度にわたって任期途中での退任を迫りましたが、いずれも断られた経緯がありました」(同前)
 退任に追い込まれた塚田氏は経営委員会の場で籾井氏をこう批判して、NHKを後にした。
「(籾井氏就任以来の)この二年間は一体何だったのでしょうか、という思いが募っております」
 だが、以降、籾井氏は反籾井派の理事たちの粛清へと走り始める。
「『逆らう人間は全員斬る』と、実際に意に沿わない人間はどんどん飛ばしています。最近では、局長クラスも『反籾井派と思われたらかなわない』と、理事の部屋には極力出入りしないようにするほどです」(前出・NHK幹部)
「恐怖政治」を完成させるべく籾井氏が画策したのが、反籾井派理事を一掃する今回の人事だったというわけだ。
 籾井氏がこの人事案を押し通すためには二つのカギがあった。ひとつはNHKナンバー2の堂元光副会長を取り込むこと。これには労せずして成功したようだ。
「もともと堂元さんは大阪放送局長を最後に、関連会社の近畿総支社長に追いやられた人です。兵庫県出身の戦国好きで、『これで黒田官兵衛の研究に没頭できる』と言っていたのですが、籾井体制でまさかの副会長就任。影の薄い副会長でしたが、昨年秋からにわかに経営の勉強を始め、会長室にも頻繁に出入りするようになった。来年一月の会長任期後に籾井氏から禅譲を受けることを持ちかけられたとも囁かれており、板野氏らを退任させることに同調したと言われています」(同前)

「安倍首相に最も近い」美人記者

 堂元氏の自宅を訪ね取材を申し入れたが、「直接取材はダメ」の一点張りだった。そして籾井氏にとって大きな関門となったのが、「官邸の同意」だった。
「五月に伊勢志摩サミット、七月に参院選を控えた安倍首相はNHKの人事にはさして興味がなく、菅官房長官に任せている。しかし、その菅長官も土地問題あたりからすでに匙を投げており、ただ一人、杉田副長官が板野氏らを使って不祥事が相次ぐNHKの引き締めを図っていました。一方で、今井秘書官は、籾井氏支持に回り、官邸内で綱引きが行われていたのです」(官邸関係者)
 こうしたなか、官邸の後ろ盾を得たい籾井・堂元両氏をサポートしたと見られているのが、“NHKの新女帝”こと解説委員の岩田明子氏だ。岩田氏は、「安倍首相に最も近い」政治記者として永田町で知らぬ者はいない。東大法学部卒の美人記者である。
「四十五歳で解説委員というのも異例ですが、政治部記者を兼務し、NHKでの安倍首相のインタビューは、ほぼすべて彼女が名前と顔を出してやっている。彼女の誕生会には、安倍首相をはじめ、塩崎恭久厚労相世耕弘成官房副長官など錚々たるメンツが駆けつけるほど。特に今井秘書官にがっちり食い込んでいます」(前出・NHK関係者)
 そのため、今回の人事をめぐっても岩田氏がカギを握るとみられているのだ。
「もともと岩田氏は、政治部の中で井上氏とソリが合わない。岩田氏が安倍首相に直接かけあって『籾井人事』の内諾を得たとの情報もありました。岩田氏にとって籾井会長に恩を売ることは自らの将来を考えれば悪い話ではない。反籾井派の陣営も、岩田氏の背後に安倍首相の“意向”を読み取れば、戦意を喪失するでしょう」(同前)
 経営委員会の前週、杉田副長官がインフルエンザに感染して一週間近く官邸を留守にしたことも、籾井氏を利する結果になった。
「籾井氏はこの間に、一気に理事の人事案を官邸にのませて、続投への流れをつくったのです」(同前)
 ちょうどその頃、安倍首相は、周囲に岩田氏を評してこうボヤいたという。
「私は人事についてイエスともノーとも言ってないが、彼女ならやりかねない。上昇志向が強くて、出世のためには手段を選ばないところがあるんだよな……」
 十二日の経営委員会の前日、岩田氏に話を聞いた。
――岩田さんが板野氏らの退任の流れを作るのに関わったと聞くが?
「とんでもない。明日経営委員会があるということも知りませんでした。現場って忙しいので、そういうことに関知していないの」
――岩田さんが安倍首相から内諾を得たのでは?
「すごい! ゼロから話が作られているとしか言いようがないです。超ド級のびっくり。だいたい私のような現場の記者が籾井会長や堂元副会長と会うこともありませんし、官邸で取材をしている時にも現場の記者はそういうことに関わらないようにしています」
 では籾井氏はどう答えるのか。
 経営委員会前日の夜、自宅マンションを訪ねると、タクシーで帰宅したのは深夜十二時頃。「勝利の美酒」に酔いしれていたのか、足元もおぼつかず、かなりきこしめしているご様子。送り届けた理事との次のようなやり取りが聞こえてくる。

「あんた、なにを言ってるの!」

理事「会長、明日また頑張りましょう!」
籾井「はい、オッケー、オッケー。どうもありがとう」
理事「今日は感動しました」
籾井「へっへっへ!」
――週刊文春です。
籾井「はい! はあはあ」
――板野氏や井上氏が退任する案を経営委員会に提示したとのことですが?
「いやー、そんな話はー、明日、広報に言ってくださいよ。あなたと話すつもりは全くありませんので」
――土地問題の一件で板野氏を退任させた?
「そんな! あんた、なにを言ってるの! もう少しね、週刊文春だったら大きく構えなきゃ!」
(不機嫌そうな表情で、記者の肩をバンと叩く)
「そんなね、ちっちゃいことで色々言ったらダメ!」
――岩田明子さんが裏で動いたとの……。
「なあーに馬鹿なことを!岩田明子って誰だ?」
――板野氏を退任させるのはなぜ?
「一つだけ言っとく。四年経ってるんですよ。みんな四年でお辞めになってる。それだけの話ですよ」
――井上氏は?
「もう、そんな話はどうでも良い。まあ、何か聞きたきゃ広報に聞いてよ」
「(マンションに入ろうとするが、振り返って)もし違うこと書いたら、あなたに対してコンプレイン(抗議)するよ」
 一方の板野氏は、小誌の取材に、「ほう、そんな人事が提案されるのですか」と惚(とぼ)けるばかり。籾井会長の暴走を食い止めるつもりはないのかと質(ただ)しても、
「理事の人事は会長の専権事項なので、私が何か申し上げるような立場でない」と答えるのみだった。
 前述した通り十二日の経営委員会では、四人の理事の退任が決まり、二月に退任した二人とあわせて六人の理事が一掃された。一方で新たに任命された理事も波紋を呼んでいる。
「理事に上がる荒木裕志報道局長は、『週刊文春』が報じた『クローズアップ現代』のヤラセ問題などで、本来なら責任をとるべき立場。にもかかわらず、籾井氏にすり寄ることで、理事の座を射止めました。ちなみに岩田氏はこの一年ほどで、局内で五回も報道局長特賞を受賞しています」(別のNHK関係者)
 局内からは、「籾井氏のご機嫌伺いばかり揃えた」と暗澹たる声も上がる。
 籾井氏は今回の人事について、次のようなコメントを出した。
〈グループ全体の「抜本的な経営改革」と不正を許さない「意識改革」を徹底するため、NHK本体と関連団体が一体となったガバナンスを確立する観点から決めました〉
 反対派をねじ伏せた籾井氏の、次なる狙いは「会長再任」だという。
「籾井氏は再任のための実績づくりに躍起となっていて、最近しきりに『受信料を値下げしたい』と語っています。これを手土産に官邸に売り込みをかけようというのです」(同前)
 前出の政府高官は、「再任だけは何としても避けなければならないが……」と天を仰ぐ。官邸が産み落とした“子飼い会長”は、誰にも止められないモンスターへと変貌を遂げつつある。

週刊文春」2016年4月21日号